年中花を咲かせているセンダングサやランタナのおかげで、
どんなに寒い冬の時期にも、
ホタル館の草原には、蜜源を奪い合うこともなく、蝶が戯れています。
穏やかな花の下で、ハート型に結ばれているのは、ジャコウアゲハの雄と雌。
冒頭で見ていただいた写真の正体は、
実は、このジャコウアゲハのサナギのときの姿なのです。
「つかまえた~。」
ホタレンジャーの女の子は、得意そうに、その黒い蝶を手づかみで次々に、捕まえています。
「それ、毒蝶だからねー!」と笑って、声をかけると、
「ひえぇー!!」と、大慌てで、捕まえて重ねて持っていた3頭の蝶を、振り払っていました。
「食べなければ、問題ないからね~!」
ホタル館に調べ学習に来た清水小学校の男の子達の方は、
女の子達とは、正反対に“毒蝶”と聞いて、思わず記念写真を撮っていました。
ジャコウアゲハは、本州、四国、九州、沖縄から、朝鮮半島、台湾、中国中南部に分布し
沖縄のものは、奄美沖縄亜種、宮古亜種、八重山亜種に分けられています。
そして、ウマノスズクサという蔓性の多年草の植物だけを、幼虫時代に食べて成長します。
日本には、琉球産の2種類を含め6種類もあるウマノスズクサ属は、
その属の学名をアリストロキアといいます。アリストロキア酸は
ウマノスズクサの有毒成分で腎障害(アリストロキア腎症)を引き起こします。
リュウキュウウマノスズクサの花
この毒は、卵から幼虫、サナギ、そして成虫になっても引き継がれ、
体内に生涯蓄積されているため、どのステージの時も
『美味しくないから食べないで!』とでも言うように、とても目立ちます。
目立つだけでなく、その上、簡単につかまえることが出来るのです。
成虫のジャコウアゲハの黒い羽にオレンジ色の目立つ斑紋は、蝶の仲間達からは、
生き残り率の高い毒蝶として知られているようで、最もよく擬態のモデルとして用いられています。
オキナワカラスアゲハ
しかし、そのジャコウアゲハのサナギの姿だけは、さすがにどの蝶も、
真似る事など、絶対に出来ないのではないだろうかと思うほど、見事なシルエット。
人間にとっては、『お菊虫』という幽霊の名前が付けられるほど
不気味な色と形、一度目にすれば、誰もが、絶対に忘れることはできないほど強烈な印象です。
今のこども達なら、たぶんポケモンキャラ、ちょっと前ならピグモン&ガラモンの発想かな?
このような生きものの姿や習性などに、人間の発想を重ね合わせて、
おとぎ話や言い伝えが、作られてゆく過程には、戒めや実際の出来事などが、
信憑性を裏付けるように偶然起きることもあって、“ロマン”という受け取り方なら
害も無く、楽しめると考えますが、
こうした生きものたちが、自らの体内に毒を取り込んだり、
大量に発生したり、共食いをしたりすることなどは、
人間の感情によって起こる祟りや怨霊などとは、まったく関係がなく、
わたし達人間の、固定された狭い概念から発想した嫌悪感や不気味な印象を
押し付けられ、一方的な理由で偏見を持たれてしまう生きものたちは、
とても迷惑な誤解を受けている存在だということに、どうか、気づいてほしいと想うのです。
ジャコウアゲハを食べるハラビロカマキリの幼虫
そんな、片寄った固定観念に囚われないで、惑わされないで、
生きものたちを、観てみましょう!
自然界の中では、人間が、お化け扱いしていることに関係なく、
鳥の様にダマされることなく、そのジャコウアゲハを、クモやカマキリは平気で食べてしまいます。
「変な虫、発見!」そう思ったとき、こども達や、わたし達は、
ホタル館の館長に知らせに行きます。
「うわぁ~、こいつは、凄い!」「良く、見つけたねぇ~!」
私たちが、見つけた生きものを、差し出す度に、館長からこぼれる言葉は、
いつでも自然を楽しむ人に対する率直な感嘆にあふれていて、
わたし達の自然に対する素直な“気づきの心”に明るい光を投げかけてくれます。
ジャコウアゲハの幼虫
自然の中には、私たちにとって、不思議な生きものや、不可解な現象が、
まだまだ沢山ありますが、その答えとして、妖怪や幽霊を発想するということが、
わたし達人間の感情による不安や迷い、悪意や罪悪感から起きているということ、
歴史的背景による排他的な弾圧や、その痛ましさのはけ口として存在していることを
しっかりと認識することは、難解な生物や科学の高度な知識を紐解くことができなくても
自然環境への純粋な関心さえあれば、子どもでも大人でも、
ごく自然に理解することができます。
そして、その上でなら、生きもの達を様々に表現する言い伝えや怖い物語を
人間にしか出来ない、イマジネーションの広がりとして受け取り
その恐怖を、ある意味、「怖いもの観たさ」の感覚で、楽しむことが出来るのではないでしょうか。
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