ホウライカガミの秘密

satou-n

2006年11月01日 12:00

鮮やかな、ツマムラサキマダラの雄の翅は、

緑の樹木によりいっそう映えて、美しく

その深みのあるブルーバイオレットの妖しい輝きは、

彼らが取り込む草本や樹木に秘密が隠されています。



1990年代前半に進入定着したこの美しい熱帯の蝶は、

今では琉球列島で普通に見られます。

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ツマムラサキマダラの幼虫は、クワ科のガジュマルやキョウチクトウ科の

リュウキュウテイカカズラなどの葉を食べます。


   ガジュマルの葉を食べる幼虫

いくつかの植物に毒があるのは、植物自体が身を守るための究極の防護策なのですが、

その有毒植物の生み出す毒の効果を無力化できる数少ない生きもの達は、

これを利用して、こんどは、自らの防護に役立てているのです。

一般的にマダラチョウ科の蝶は、幼虫時代に食草の有毒成分を取り込む能力が高く、

ツマムラサキマダラも、キョウチクトウ科を食べて育ったものは、有毒成分を

しっかりと取り込んでいるものと考えられます。

そのため、捕食を免れ、例えば、妖しい輝きのこの美しい蝶が、

食べようとする鳥にとってはひどくまずい毒蝶として学習されていきます。

しかも、その毒の取り込みは、幼虫時代だけでなく成虫になった後にもこうして、

毒草を訪れ、花の蜜の吸い方とは違い、枯れたものに飛来して

唾液を吐き戻しながら成分を染み込ませ再び吸っているようです。



    ツマムラサキマダラの雄                    カバマダラの雄

蝶のストローって、吸うだけに使っているように思っていたのですが、

子供達がストローを使って時々ブクブクやってるのと同じように吐き出すこともできるんですね。

特にアルカロイド系の有毒植物として有名なホウライカガミは、

他の毒蝶やなんと、カメムシにも好まれるらしく

最近確認したのは、ヒメアカナガカメムシです。

この派手な赤黒の色彩パターンは毒虫の警告でしょうか。

たくさんの親子が寄り添いあって、ホライカガミを吸汁しています。

たくさん寄り集まって吸汁することで、植物体の防御機能である毒物質(キノン)を

それぞれの唾液に含まれる酵素で無毒化する効果を高めていると考えられています。



硬い牙や歯のないツマムラサキマダラや他の蝶達にとっては、

この、カメムシの吸い跡の穴は絶好のポイント。

そして、もっとも魅力的なのは、カメムシが噴射した排泄物。

これには、普段は花の蜜を吸っているリュウキュウアサギマダラまでいそいでやってきます。




私達は、排泄物は、必要のない汚いものだという概念がありますが、

化学の目を通してみると、消化されずに残った物質のより吸収しやすい状態や、

化学変化を起こした物質が排泄物に含まれるという解釈ができます。

シロチョウやアゲハチョウの仲間が、人のオシッコに集まってくる話は有名ですし、

人の汗や、鳥や獣の糞から吸汁することも、よく観察されています。

ツマムラサキマダラの雌の方は、鳥の糞を唾液を吐き戻して、溶かしながら吸っていました。



その科学的に吸収した成分は、身を守る以外にもマダラチョウ科の雄は、

雌を誘う媚薬の性フェロモンとしても使っているようです。

自然界には、私達人間の営みだけでは、決して判断することのできない、深さがあります。

その深さを、見誤ることは、これからの地球環境を考えていく上で、弊害になります。

たとえば、ティム・バートン監督の映画「シザーハンズ」で、ジョニー・ディップ演じる主人公の

手がハサミであるがために、人間社会には、受け入れられない切ない物語の中にも

全ての世界を人間だけの概念で捉えることの不条理が悲しみとなって漂っています。

人間以外の他の生きもの達は、様々な進化の過程で、究極の形や行動を整えてきました。

映画のような恋愛は、ここにはありませんが、異形に感じたり、奇異に思われることは

自然の世界には、様々にあります。

その不思議な繋がりを純粋に見つめることから、共生の世界が始まります。

生きもの達の精巧な営みの合理性や、その科学的な解釈に耳を傾けることは、

偏見を取り払い、新たな感動に心を触発されて未来を見つめることができる

人間を育んで行けると思うのです。

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